連載小説「結婚」第3話 耳だけのはじまり
前回の終わりから…
幸いにも3連休、人と会う予定はなかったので、
全ては流れるままに身を任せてみたのである。
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運命の糸があるとすれば、このおばさんの厚かましさのおかげである。
とりあえず、予定は狂ったものの計画は遂行できる見込みは立った。
自宅に戻ると、荷造りがまだ完了していない部屋が目の前に広がる。
荷物が少ないとはいえ、本来ならば今日が退去といっても退去するにはほど遠い。棚の上には剥き出しのマスコットなどが無数にあり、本も平置きのままで箱詰めはできておらず、やることは山積みであった。
自分のいい加減さに呆れつつも、なんやかんや引越日が一日延びてラッキーという楽観視する自分もいた。
今日はゆっくり荷造りでもしようと呑気に寝そべり、スマホいじりを始める。あとはもうダラダラYouTubeを見始めて、時が流れていった。
数時間経過した頃に、一本の電話が入った。
この電話が夫とのファーストコンタクトである。
いつもなら見知らぬ着信からかかってきても全部無視を決め込むところだが、今日は反射的に電話をとってしまった。
「はい、西本(私)です。」
「西本さんですか。こちら、トランクルーム配車サービス、ドライバーの青山と申します。明日、9:30に伺いますが、事前連絡でございます。
場所の確認なのですが、… 近くに交番のある建物で間違いないでしょうか。」
電話の男は、とても感じが良かった。
率直にそう感じた。低い声で、ゆっくりと落ち着いた声域と程よい声量。場所のすり合わせをするべく、建物の特徴を説明する。
互いの波長を合わせるように会話をしてくれたため、車を止めにくい場所ではあれど、明日への不安は一気に解消された。
「では、明日どうぞよろしくお願い致します。
失礼しまーす。」
5分にも満たない短い電話であった。
何気ない電話が、人と人を繋いだわけである。
後に夫となる男の電話に好印象は持ったものの、ただそれだけでいきなり恋愛のスイッチが発動したわけではなかった。
電話が終わると、相変わらず荷造りできていない部屋の現実に直面する。
外は、暗くなりつつある。
さすがにこれではいけない。夏休みの宿題も先延ばしにする性分ではあったが、大人になってもそれはなんら変わらないのであった。
電話もかかってきたことのもあり、
少しずつ手を動かしはじめたわけです。